7月初旬から9月の中旬までの約2ヵ月半の間、公園や街路樹などの木々の多い所ではセミの鳴き音が発生します。 セミは1つの個体でも非常に大きな音を発生するのですが、群れになった場合は相当なレベルとなり、静かな地域においては支配的な騒音源になる事があります。 このような環境での騒音調査は望ましくは無いのですが、やむを得ず測定を行わなければならない時にはセミ音対策を考えなければなりません。
メモ
やむを得ず測定を行わなければならない場合とは、集合住宅の遮音設計の為の測定のように、測定位置や測定日時の変更が困難な場合などです。 測定位置や時期の変更が可能な場合は、なるべくセミ音のない場所や時期に変更する事が望ましいと思います。
セミ音の発生時間帯は主に日中ですが、都内においては早朝から夜遅くまで発生する事があります。 またセミ音は突発的な音とは異なり長時間に及んで定常的に発生する場合が多く、測定の一時停止など時間的に除外を行うことは困難です。
セミはどうやってあれほど大きな音を出しているのでしょうか。
セミは腹部内にある発音筋により腹部を振動して音を出し、腹部の空洞で音を共鳴する事により大きな音を出しているそうです。 共鳴音の中心周波数は共鳴器の大きさに反比例するので、身体の小さな昆虫の共鳴音の周波数は高い音に限定されます。 実際に周波数分析を行った結果は以下の通りです。 JIS遮音等級の選定を目的とした測定の為、周波数分析は 1/1オクターブバンド分析、周波数範囲は 125Hz ~4000Hz 迄の 6バンド+1バンド(参考として 63Hz を付記)で表記しています。
グラフ中の赤線はセミ音が発生していた環境音の周波数特性となります。 青線はセミ音が発生していない時の環境音です。(不思議な事にセミ音は一斉に鳴くのを止める瞬間があります) 4kHz帯のレベルが明らかに違っている事から 、測定結果に影響するセミ音の中心周波数帯域は4kHzである事が予想できます。
そこで4kHz帯にのみ補正を加えて、周波数特性を青線と同じようになるように修正してみたところ、セミ音が発生していた時のdBAの値が66dBから55dBになりました。 セミ音の影響により環境騒音のレベルが10dBも高くなっていた事になります。
同様の方法で音響データを再分析して、騒音レベル波形を出力してみました。
赤線が補正を加える前、青線が補正を加えた後のレベル変動になります。 補正後のレベルを見ると、補正を加える前は全く見えていなかった道路騒音によると思われるレベルの変動がはっきりと読み取れるようになりました。 補正前から見えていた道路騒音に起因するレベルについては、補正後も殆ど変化がありません。 これらの結果から 4kHz 帯の補正はセミ音のみの軽減に有効であると考える事が出来ます。
ただ、この方法によるセミ音の軽減は、短時間であれば問題ないのですが、24時間となるとなかなか大変な作業になるので、コストの面からみてもお勧めできる方法ではありません。 また補正を行う事で信頼性も低下してしまうので、セミ音が収まる時期に再測定を行う事を前提とした緊急用と考える事が望ましいと思います。
注意
今回は「やむを得ない場合」のセミ音の軽減について考えてみましたが、この方法によるセミ音の除去を推奨している訳ではありません。