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低周波音の対応事例 ⑤

行政が実施した騒音対策事例は、騒音問題解決のヒントとなる貴重な情報源です。 しかし、多種多様な事例の中から、自らのケースに最適なものを探すのは容易ではありません。 そこで、本記事では、弊社が実際に経験した騒音測定事例を参考に、環境省の資料から類似事例の対策案を、解説を加えながらご紹介します。

第5回は、空調室外機が音源となる低周波音を取り上げますが、この事例では苦情者よりも、調査員の方が低周波音の影響を強く感じるといった、少し変わった事例になります。

第5回 【事例19】 調査員が体調を崩す程の低周波音

事例の本文は下記のリンクよりご確認できます。

・低周波音対応事例集(平成20年12月)環境省 Webページ
・この記事で扱っている事例【事例19】

 

空調室外機が音源となる低周波音の事例は、第1回で既にご紹介していますが、今回の事例では、調査員が圧迫感により体調を悪くするほどの低周波音を扱った事例です。 行政の調査員は、苦情者宅の室内で、室外空調機の稼働状況の変化に伴う音圧レベルの変化を調査していた際、空調室外機作動時に圧迫感を感じ、吐き気をもよおしたため室外に退出したという事です。 室外に退出したところ圧迫感は無くなったようですが、調査という短時間であっても吐き気をもよおすほどの低周波音とは、いったいどの程度のレベルなのでしょう。

 

この事例のポイント

・空調室外機による低周波音
調査員が圧迫感により吐き気をもよおす(室外へ退出する事で圧迫感は収まった)
・低周波音の感じ方には個人差が大きいという事が良く分かる事例

 

【事例19】の要点

発生源 空調室外機
苦情内容 頭痛、イライラ感、不快感
対策方法 室外機の移設

 

申し立て内容の把握と現場の確認

今回の事例では、音源に隣接するマンションに住む複数の住民から苦情が寄せられています。 調査員の所見では、苦情者宅の室内において、音と不快感が確認されたとのことです。

業務用の空調室外機は、一般家庭用よりも大型であるため、騒音源となるケースが少なくありません。 弊社における測定でも、空調室外機が騒音源である場合が多く、そのほとんどが業務用の大型機種です。 一定以上の出力を持つ空気圧縮機は騒音規制法の規制対象となりますが、空調室外機は冷媒を圧縮する冷凍機に該当するため、同法の規制対象外となります。

 

測定~評価

この測定中に調査員のうち1名が、圧迫感を感じ、吐き気をもよおしたため室外に退出したとしています。 その時の状況は、苦情者宅の室内で、空調室外機の稼働時の音圧レベルの変化の確認中の出来事だったようです。 室外に退出した事で、圧迫感は無くなったとしていますが、調査目的の短時間の滞在であっても、体調が悪化したという事ですから、そこに住まわれている方は、大変な苦痛であったことが予想されます。 しかしながら、この時の測定では、低周波音の測定を正しく行われておらず、下の表を見るだけでは、低周波音の発生状況を確認する事は出来ません。

このグラフでは、低周波音に係る心身苦情の参照値と、オクターブバンド音圧レベル(1/1oct)を比較していますが、総務省で注意喚起しているように、心身苦情の参照値で比較・評価する場合は、室内で測定した 1/3オクターブバンド音圧レベルでなければなりません。 したがって、本来であれば、このグラフから低周波音の評価を行う事は出来ません。

 

対策の検討

測定の結果から、低周波音が苦情の原因である事を店舗側に説明し、対策をの検討を依頼したとしています。 これを受けて、店舗側が空調室外機を建物屋上に移設する対策を実施した事で、今回の対策を終了したようです。

対策後の確認が行われていない事が気になりますが、その後の苦情が無かったという事であれば、住民が納得できる程度の効果があったものと思われます。

 

今回の【事例26】に対する所感

今回の事例は、測定方法や評価方法などに疑問が残る点があるものの、環境省が公開している事例であることから、低周波音対策を考える上での一つの参考資料になるのかなと思います。

しかし、この事例の中で最も印象的なのは、調査員が体調を崩した事と、低周波音の因果関係が示されている点です。 騒音の感じ方は人それぞれであり、特に低周波音は個人差が大きいとされています。 心身苦情の参照値は苦情の原因が低周波音である可能性を評価する指標であり、参照値を超えたからと言って、必ずしも苦情が発生するわけではありません。 しかしながら、今回のケースのように、低周波音によって体調を崩す人がいるということが明確になった事例は、低周波音問題の深刻さを示す重要な事例と言えるでしょう。