行政が実施した騒音対策事例は、騒音問題解決のヒントとなる貴重な情報源です。 しかし、多種多様な事例の中から、自らのケースに最適なものを探すのは容易ではありません。 そこで、本記事では、弊社が実際に経験した騒音測定事例を参考に、環境省の資料から類似事例の対策案を、解説を加えながらご紹介します。
第4回として、今回はアパート上階の冷蔵庫が音源となる低周波音の事例を取り上げます。
第4回 【事例 26】 冷蔵庫による低周波音
事例の本文は下記のリンクよりご確認できます。
・低周波音対応事例集(平成20年12月)環境省 Webページ
・この記事で扱っている事例【事例26】
この事例で特筆すべき点は、事例の本文中で明記されているように、『低周波音は規制対象外であることを事前に説明し、住民の同意を得た上で、公害苦情相談として発生源調査を行った』という点です。つまり、環境確保条例では同一建物内の騒音は規制の対象外ですが、行政は公害苦情相談として、低周波音の発生源調査を行ったという点が重要です。これは、同一建物内の騒音問題に行政が介入した事例として、貴重な資料になると思います。
この事例のポイント
・同一建物内で発生する音に行政が対応している
・住民間で発生した騒音問題
・どこの家庭にもある家電製品が騒音源である
【事例26】の要点
発生源 | 冷蔵庫 |
苦情内容 | 不快感、頭痛、不眠 |
対策方法 | 冷蔵庫の下に家庭用マットを敷く |
現場の確認
当初は低周波音の発生源が不明であり、近隣での測定を4回実施したようです。 また、調査員の耳では聞き取れない音であったため、屋外での発生源調査は困難だったとしています。 しかしながら、苦情者宅内での低周波音調査では、心身苦情の参照値を超過しており、後日の調査で苦情者宅直上に設置された冷蔵庫が、低周波音の発生源であると推定しています。
騒音レベルは耳で聞き取れる音なので、その音源を特定する手がかりになりますが、低周波音のように人の耳では聞き取りにくい音の場合、音源の特定は非常に困難です。 今回の事例は、低周波音の音源特定がいかに難しいかを示す一例とも考えられます。
測定・評価
測定の結果、冷蔵庫の稼働時と停止時の音圧レベルの変化が、測定された低周波音の変動と一致したことから、低周波音の発生源が上階の冷蔵庫であると判断しています。
この事例では、大家さんや上階住人の協力のもと、行政にて調査を実施したことで、正確な発生源特定が可能となったと思われます。
対策の検討と効果の確認
対策として、冷蔵庫の下に家庭用マットを敷いたことで、心身苦情の参照値以下である事を確認したとしています。 しかしながら、苦情者からは相談が続いたため、大家を通して対応をお願いしている事、更なる対応は民事で解決する事をお願いして、今回の測定を終了としているようです。
今回の【事例26】に対する所感
今回の事例の最大の特徴は、同一建物内の騒音問題を、公害苦情相談として行政が積極的に調査を行った点にあると思います。 環境確保条例では、同一建物内の騒音は規制対象外とされていますが、今回の事例では、行政が住民間の騒音問題に介入し、詳細な調査を実施したことで画期的です。
特に、老朽化したアパートという条件下で発生した上下階間の騒音問題に対し、行政は繰り返し測定を行うなど、丁寧な調査を実施し、低周波音の影響を具体的に確認した点は注目に値します。
弊社へ寄せられる相談には、集合住宅内の騒音問題も多いのですが、環境確保条例の対象外であることから、解決が困難なケースがほとんどでした。 この点から、本事例は、行政が住民間の騒音問題に積極的に関与し、解決策を模索する可能性を示したことで、とても貴重な事例と言えるのではないでしょうか。