行政が実施した騒音対策事例は、騒音問題解決のヒントとなる貴重な情報源です。 しかし、多種多様な事例の中から、自らのケースに最適なものを探すのは容易ではありません。 そこで、本記事では、弊社が実際に経験した騒音測定事例を参考に、環境省の資料から類似事例の対策案を、解説を加えながらご紹介します。
第2回として、今回はルームランナーによる低周波音の事例を取り上げます。
第2回 【事例 25】 ルームランナーによる低周波音
事例の本文は下記のリンクよりご確認できます。
・低周波音対応事例集(平成20年12月)環境省 Webページ
・この記事で扱っている事例【事例25】
今回の事例で特筆すべき点は、一般的に行政の対応が難しいとされる、同一建物内の騒音問題に対して、行政が積極的に介入している事です。 ご存じのように、環境確保条例(騒音規制法)では、『集合住宅など同一建物内部における各住戸間の騒音』は規制対象外としています。 そのため、これまでマンションやオフィスビルなどの、同一建物内での騒音問題は、行政による解決が困難なケースがほとんどでした。 しかしながら、この事例は、行政が積極的に対応し、その内容が環境省の事例集で公開されているという点で画期的です。
この事例のポイント
・同一建物内で発生する音に行政が対応している
・上階から低周波音が発生(似たような問題は非常に多い)
・調査員の所感でも不快感がある(ほぼ全ての人が感じる音)
【事例25】の要点
発生源 | ルームランナー |
苦情内容 | 不快感、圧迫感 |
対策方法 | 移設 |
現場の確認
この事例では、問題となっている音の原因が、上階に設置されたルームランナーである事がはっきりしています。 また、低周波音の影響については、音源室直下の部屋(執務室)に勤務する大多数の人が不快感を感じていて、調査員の所感でも、不快感を感じるとしています。
弊社での事例でも、同一建物内で発生する音は、外部からの音に比べて、音源と音の種類が特定しやすいケースが多いです。 特に、トレーニングルームから発生するドスンドスン(ウエイトトレーニング)、バンバン(打撃系)、ゴォー(スピンバイク)といった低周波音を含む騒音は、他の音と明確に区別できます。
測定と評価
この事例では、苦情のあった執務室を含めた計 4カ所で測定を実施しています。 音源室(上階のトレーニングルーム)で測定を実施していないのは、受音室でもルームランナー使用時の音を、はっきりと聞き取ることができるからだと思われます。
測定の結果は、ルームランナー使用時は、8Hz 以上の全ての周波数で音圧レベルが上昇し、 31.5Hz 以上の周波数帯で心身苦情の参照値を超過していました。 この結果から、ルームランナーの使用と苦情内容の対応があることを確認したとしています。
騒音問題の測定では、通常、音源室と受音室の両方を測定することで、音源と苦情との因果関係を明確にします。しかし、この事例では受音室のみの測定で対応しているようです。これは、受音室における騒音レベルが非常に高く、上階からの音が原因であることが確実と判断されたためと考えられます。
対策の検討と確認
対策としてルームランナーの設置場所の移動と、ルームランナーの下に防音床材を敷く対策を講じています。 最終的に完全に別室(苦情のある直下の室とは離れた位置)に移動させたようです。
低周波音対策は、防音部材での対策が難しいため、音源そのものへの対策、または音源の移動・停止が最も有効な対策となります。 今回の場合は、完全別室へ移動させることとなったようですが、このように広い空間で音源の設置場所を選べる状況は多くはありません。 今回の事例では、対策としては最も効果的で、理想的だなと感じました。
対策の効果の確認
今回の事例では、対策としてルームランナーの設置場所の移動と、ルームランナーの下に防音床材を敷く対策を講じています。 また、対策後には確認調査を行っています。 それによりますと、調査員の感覚では、音は僅かに聞こえたが、不快感は無くなったとしています。
上のグラフは、執務室におけるルームランナーによる低周波音の状態を示しています。 対策前のルームランナー使用時、31.5Hz以上の全周波数において、低周波音レベルは心身苦情の参照値を上回っていました。 しかし、ルームランナーの移設という対策後には、全周波数で参照値を下回るまで改善され、特に20Hz以上の低周波数帯域では、稼働時の騒音レベルが停止時と同等となりました。 この結果から、低周波音対策として、音源の移設が非常に効果的であったことが明らかです。
今回の【事例25】に対する所感
冒頭で述べたとおり、この事例は、環境確保条例では規制対象外とされている同一建物内の騒音問題に対して、行政が積極的に対応したという点で、今後の対策を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
近年、マンションの一室を利用したパーソナルジムや、自宅でのトレーニングが増加する中、低周波音問題は深刻化しています。 多くの場合で防音対策には配慮しているようですが、低周波音は一般的な防音材では遮断しにくいため、思わぬ騒音トラブルに発展することがあります。 このことが、当事者間の認識のズレを生み、問題解決を困難にする一因となっているようです。
同一建物内での生活環境は密接しているため、低周波音問題は長引くと人間関係にも悪影響を及ぼし、深刻な問題に発展する可能性があります。 今回の事例は、このような問題に対して、行政が積極的に関与することで、迅速な解決に繋がる可能性を示唆しています。