近年、低周波音に関する苦情が年々増加しているそうです。
弊社におきましても、低周波音の相談件数は増加傾向にあり、今年も多くの測定を実施いたしました。 低周波音は、一般の方にとって馴染みが薄いため、測定の際には様々なご質問をいただきます。 そこで今回は、私自身がよく頂くご質問に対し、分かりやすく解説したいと思います。
低周波音とは
人間の耳で聞こえる音の周波数範囲は、一般的に 20Hz ~ 20,000Hz とされています。 このうち、概ね 1Hz ~ 100Hz の音を低周波音、特に 1Hz ~ 20Hz の音を超低周波音と呼びます。
※環境省 Webサイトから『よくわかる低周波音』より一部抜粋
低周波音は何処にでも存在する
「低周波音があるかないか」といったお問い合わせを頂くことがありますが、低周波音は自然界や人為的な活動によって発生し、私たちの生活環境に常に存在しています。 しかし、人間の耳では感知しにくい周波数のため、通常は問題となることはありません。 ただし、強度が一定レベルを超えると、不眠、頭痛、集中力の低下などの健康被害が現れる可能性があります。 つまり、問題となるのは低周波音そのものではなく、その強度なのです。
低周波音の影響
低周波音は、睡眠障害、頭痛、めまい、不眠、集中力の低下、耳鳴り、吐き気、胸が圧迫されるような感覚など、様々な健康被害を引き起こす可能性があります。 しかしながら、低周波音の感じやすさには、年齢、性別、生活環境、体調など、様々な要因が関わっており、個人差が非常に大きいため、同じ環境下でも感じ方や症状は人それぞれです。 そのため、家族や友人から理解を得られず、孤独感を感じたり、精神的なストレスを抱えたりするケースも少なくありません。 低周波音による健康被害は、本人だけでなく、周囲の人々にも大きな影響を与える可能性がある深刻な問題です。
低周波音と騒音レベルの違い
騒音レベルは、人が感じる音の大きさを数値で表したもので、物理的な音の強さを示す音圧レベルに、人間の聴覚特性に合わせて補正を加えたものです。 この補正をA特性補正といい、周波数によって異なる人間の聴覚感度を考慮した補正値で、日本だけではなく国際的に広く使われています。 一方、低周波音は、人の耳には聞こえにくい周波数域の音を表すため、A特性などの補正を行っていません。 また、騒音レベルは全ての周波数の総和で表すのに対し、低周波音は周波数毎のレベルで表します。
A特性補正値(JIS C 1509-1 表 3 より一部抜粋)
周波数(Hz) | 10 | 20 | 40 | 80 | 160 |
A特性補正値(dB) | -70.4 | -50.5 | -34.6 | -22.5 | -13.4 |
A特性補正値は、周波数が低くなる程、補正量は大きくなります。 そのため、A特性を行った音圧レベル(騒音レベル)では、低周波音の影響を正確に把握することはできません。 このように、低周波音と騒音レベルには直接的な因果関係が無いため、騒音レベルが低くても、低周波音が大きいといった現象が起こるのです。
G特性とは
G特性音圧レベルは、人間の聴覚特性を考慮したA特性音圧レベルに対し、主に1Hz~20Hzの超低周波音の大きさを評価するために用いられる指標です。 G特性は、ISO 7196で規定された周波数重み付け特性を用い、超低周波音の感覚閾値に基づいた補正が施されています。 G特性の周波数重み付け特性は、1Hz未満および20Hz以上の周波数成分を大きく減衰させるため、 G特性音圧レベルを 20Hz 以上の低周波音の評価に用いる事は出来ません。 G特性音圧レベルは、騒音レベルのように明確な規制基準は存在しませんが、一定レベルを超えると、人によっては不快感や生理的な影響が生じる可能性があることが知られています。 そのため、低周波音による苦情が発生した場合、その原因が超低周波音であるか否かを判断する上で重要な指標となります。
G特性音圧レベルとA特性音圧レベル(一般的な騒音レベル)は、評価する周波数帯域や人間の聴覚特性に対する重み付けが異なるため、同じ数値でも感じ方は大きく異なります。 例えば、 80dB は騒音レベルでは非常にうるさいと感じるレベルですが、G特性音圧レベルでは 90dB 以下は知覚できないとされているため、無視して問題ないレベルとして評価されます。 環境省や総務省における「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」では、G特性音圧レベルが 92dB 以上での場合、低周波音による健康被害の可能性を検討する必要があるとされています。 ただし、これらはあくまで一つの目安であり、低周波音の感じ方は個人差が大きい事に注意が必要です。
最後に
今回は、弊社に寄せられる低周波音に関するご質問にお答えする形で、本記事を作成いたしました。 一般の方にも分かりやすく、専門用語を極力避けて解説しております。 専門家の方々には、より詳細な情報が必要な部分もあるかと存じますが、本記事が低周波音に対する理解の一助となれば幸いです。