外部騒音に対する室内騒音予測計算の考え方と実務上の整理
本稿では、外部騒音に対する室内騒音予測計算について、 日本建築学会の計算方法を骨格としながら、 実務上もっとも判断に迷いやすい反射音の扱いまで含めて整理します。
この計算は、単に室内騒音が目標値を満たすか否かを確認するためだけのものではありません。 外壁、開口部、給気口、仕上げ条件などを変更した場合に、 どの部材がどの帯域で効いているかを把握し、 設計条件を比較・検討するための実務的な手段でもあります。
本稿で扱うのは、環境基準評価そのものではなく、 建物外部騒音に対する室内騒音予測計算です。 したがって、環境基準評価における反射音補正と、 建築後の外壁面入射を想定した設計用外力の設定とは、 目的の異なる概念として扱います。
1.本稿の位置づけ
計算の骨格は、日本建築学会 「実務的騒音対策指針〈応用編〉」 計算例 1-7 「各部位からのデシベル合成による方法」に基づきます。 また、計算例の整理や比較確認には、 日本建築学会 「集合住宅の遮音性能・遮音設計の考え方」 の室内騒音計算例も参考にしています。
一方で、実務上もっとも問題となるのは、 外部実測値にどの範囲まで反射音の影響が含まれていると判断するかです。 この点については、 日本建築学会の式だけでは現地の位置関係判断が難しいため、 環境省 「騒音に係る環境基準の評価マニュアル(道路に面する地域編)」 の図解を、反射音の影響範囲を判断する実務資料として参照します。
2.計算の全体フロー
- 反射性壁面のない位置で、外部騒音の帯域別実測値を得る
- 必要に応じて各バンドに反射音補正を与え、外壁面入射レベルを設定する
- 室内平均吸音率と室内総表面積から、等価吸音面積を求める
- 各部材の音響透過損失と面積から、各部材の室内寄与レベルを求める
- 部材ごとの寄与を帯域別にエネルギー合成する
- A特性補正を行い、最終的な室内騒音予測値を求める
3.外部騒音の設定
3-1.外部騒音は帯域別実測値を用いる
外部音は、反射性壁面のない位置での実測値を用います。 対象帯域は、 125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz の6バンドです。 この計算では、総合値ではなく、 各帯域の音圧レベルをそのまま扱う必要があります。
したがって、外部騒音は、 A特性総合値ではなく、 帯域分析結果を用いることが前提となります。
3-2.反射性壁面のない実測値を用いる場合の補正
反射性壁面のない位置での実測値を採用する場合、 日本建築学会の当該計算法に従えば、 外壁面入射レベルは各バンドに対して +3dB の補正を与えて設定します。
- Lout,j:帯域 j における外壁面入射騒音レベル
- Lo,j:帯域 j における反射性壁面のない位置での外部実測値
ここで重要なのは、 3dB を総合値に一括加算するのではなく、 6バンドそれぞれに対して個別に 3dB を与えることです。
3-3.反射音影響範囲の判断
実務上は、 どこまでを「反射性壁面のない位置」とみなすかが問題になります。 この判断の補助資料として、 環境省マニュアルの反射音補正範囲の図解は有効です。 本稿では、この図を 「環境基準評価の補正量の根拠」 ではなく、 「現地実測値に反射音の影響が既に含まれているか否かを判断するための実務資料」 として用います。
本稿では、環境基準評価そのものの説明ではなく、 反射音の影響範囲を判断するための実務資料として参照しています。
実務上は、反射音補正量を一律に固定するのではなく、 測定位置、既存建物の有無、評価対象面、必要精度、 安全側の考え方を踏まえて判断する必要があります。 ただし、本稿の計算骨格は、 反射性壁面のない位置での実測値に各帯域 +3dB を与える整理で進めます。
4.室条件の設定
4-1.室内平均吸音率
室条件は、まず室内平均吸音率 α を設定します。 平均吸音率は、 各室内面の吸音率と面積を用いて求める代表値です。 実務では、天井、床、内壁、家具等を含めた室内条件を反映させるのが原則ですが、 比較検討段階では代表値を用いることもあります。
4-2.室内総表面積
室内総表面積 S は、 計算上の総表面積を用います。 ここでいう総表面積には、 外壁面である窓面積や換気口面積などの開口部面積も含めます。 これは重要な点であり、 室内側境界面として存在する以上、 総表面積から除外しません。
4-3.等価吸音面積
等価吸音面積 A は、 平均吸音率 α と室内総表面積 S の積で求めます。
- A:等価吸音面積
- α:室内平均吸音率
- S:室内総表面積(窓面積・換気口面積を含む)
本稿では、この A を各部材から室内へ透過する帯域別寄与レベルの計算に用います。
5.各部材から室内に影響するレベルの計算
外壁、窓、給気口など、 各部材 i から室内へ透過する帯域別レベル Li,j は、 外壁面入射レベル、各部材の音響透過損失、面積、等価吸音面積から求めます。
- Li,j:部材 i の帯域 j における室内寄与レベル
- Lout,j:帯域 j における外壁面入射騒音レベル
- TLi,j:部材 i の帯域 j における音響透過損失
- Si:部材 i の面積
- A:帯域 j における等価吸音面積
ここで用いる音響透過損失は、 各メーカー資料や試験成績書等に示される帯域別データを採用します。 実務では、総合等級だけでなく、 必ず帯域別の値を確認する必要があります。
5-1.給気口の扱い
給気口は、 単位面積基準化音響透過損失値で示されることが多いため、 この場合の面積は 1㎡ として計算して差し支えありません。 ただし、採用する透過損失値の定義が、 単位面積基準化であることを確認したうえで用いる必要があります。
実務上の整理
- 外壁・窓:実面積を用いる
- 給気口:単位面積基準化音響透過損失値であれば 1㎡ を用いる
6.各部材の帯域別寄与の合計
各部材ごとに求めた Li,j は、 各帯域ごとにエネルギー和で合成します。 たとえば 125Hz は 125Hz 同士、 250Hz は 250Hz 同士というように、 帯域ごとに別々に合成する必要があります。
- Lj:帯域 j における室内騒音レベル
- Li,j:部材 i の帯域 j における室内寄与レベル
この段階では、まだ A特性補正は行いません。 まずは 125Hz~4kHz の各帯域について、 室内に到達する帯域別レベルを求めます。
7.A特性補正
帯域別に求めた室内騒音レベル Lj に対し、 各帯域の A特性補正値を与えます。 6バンドの補正値は、次の通りです。
- 125Hz:-16.1dB
- 250Hz:-8.6dB
- 500Hz:-3.2dB
- 1kHz:0.0dB
- 2kHz:+1.2dB
- 4kHz:+1.0dB
したがって、 A特性補正後の帯域別レベルは、 各帯域ごとにこれらの補正値を加減して求めます。
8.最終的な室内騒音予測値
A特性補正後の6バンドを最後にエネルギー和すると、 最終的な室内騒音予測値 LA が得られます。
これが、外部騒音に対する室内騒音予測値となります。
9.実装上のポイント
- 外部音は、反射性壁面のない位置での帯域別実測値を用いる
- 各帯域に +3dB を加え、外壁面入射レベルを設定する
- 室内平均吸音率と総表面積から A を求める
- 各部材の透過損失と面積から、各部材の帯域別寄与を求める
- 各帯域ごとに部材寄与を合成する
- A特性補正を行い、最後にエネルギー和をとる
外部騒音、室条件、各部材の透過寄与、帯域別合成、A特性補正を分けて整理すると、 計算過程の確認と検算がしやすくなります。
10.まとめ
この計算では、 反射性壁面のない位置で得た帯域別実測値を出発点とし、 各帯域に 3dB の補正を与えて外壁面入射レベルを設定します。 次に、 室内平均吸音率と室内総表面積から等価吸音面積を求め、 各部材の音響透過損失と面積から、 室内に寄与する帯域別レベルを算定します。
その後、 各部材の寄与を帯域別に合成し、 A特性補正を行い、 最後にエネルギー和をとることで、 室内騒音予測値を求めます。
実務上は、 反射音の影響範囲、採用する外部騒音の条件、 室条件の設定方法、 各部材データの選定によって結果が変わります。 したがって、 式だけを機械的に使うのではなく、 どの条件の値を何の根拠で採用しているかを 明示しながら進めることが重要です。
参考資料:日本建築学会「実務的騒音対策指針〈応用編〉」、 日本建築学会「集合住宅の遮音性能・遮音設計の考え方」、 環境省「騒音に係る環境基準の評価マニュアル(道路に面する地域編)」ほか。